東京オリンピック予選、MGC男子マラソンの予想は、設楽選手・大迫選手・井上選手・服部選手の4人が本命でしたが、ふたを開けてみると、ダークホースの中村選手が優勝。服部選手が2位、大迫選手が3位、設楽選手と井上選手は大きく遅れる結果となりました。
そこで、マラソン解説者と本人談話などを踏まえ、本命4人の走りを私なりに解説します。
服部選手は、本人談話からも「力を出し切れたレースであった」。しかも、ラストの大迫選手とのデットヒートに勝てたのは、大迫選手の走りを見て、自分の力の出しどころを考え、実行できたという点だと思います。
また、暑さ対策も万全を期していた。水分と糖を補給する2種類の給水や、氷を首回り、手のひらに当てるなどして、わずかでも体を冷やす工夫がみられた。上り坂の走り方も、骨盤を前傾してハムストリングスを意識して走ったという。
「冷静な判断」、「科学的な対策」この2点が生きたレースであった。
大迫選手は、本人も言うように、いつもなら終始後方から、全体の動きを把握してペースの上げ下げを最小限に抑えつつレースを進めるのだが、設楽選手が飛び出したことで、「焦り」が生じてしまった。結果、前半でいつものような走りができなかった。
最後の、競り合いで服部選手に軍配が上がったのは、大迫選手はトップをいく中村選手との競り合いで力を使いすぎてしまい、服部選手との競り合いに使う力が残っていなかったということが、正直なところだと思う。大迫選手は、日本記録保持者、「トップでゴールする」という気持ちが強かった。残り2Kくらいで、「今日は2位でもいい」と思えれば、結果は違っていたかも。
それでも、3位。大崩れしないところがいいし、今回は2人に完敗を認めています。これを機にさらに強くなる予感がします。
設楽選手は、「宇宙人」とか「鈍感力」が良いと言われています。今までマラソンの常識を覆すような、練習方法、考え方でこれまで結果を出してきました。今回も、「常識を打ち破るような記録が出るかも」と本人が言っていたので、最初から飛び出したのでしょう。
暑さに対しても、そこまでナーバスになっていないようです。帽子もかぶってなかなかったし、氷もほとんど手にしていませんでした。
昔、ソウルオリンピック予選がかかる福岡国際マラソンで中山竹通選手がスタートから飛び出し、終始独走で優勝したレースを思い出しました。独走でも優勝はできますが、今回との違いは、10K地点で第二集団との差がここまでなかったように思います。いかに、設楽選手が速かったか。しかも、夏のマラソンです。
「常識を打ち破るような記録が出るかも」と言いましたが、記録でなく順位に目標を定めれば良かったと思います。
ただ、そんな勝ち方では満足できないのが設楽選手なのかも知れません。
井上選手は、終始体が動かなかったと言っており、本人も原因がわからないとのこと。過去に世界選手権でも同じようなことがあったと聞きます。
これについては、ノーコメントですが、私の回りにも、レベルは違うにしろ、同じようなランナーがいました。
4人を総括すると、このようなオリンピック予選がかかる重大な大会で、スタート前から本命に上がるという事は、相当なプレシャーだという事。そのプレッシャーが本人の気づかないところで、いろんな「ズレ」や「焦り」を生じさせ、服部選手以外は、思い描いたレースができなかったということでしょう。
結局、プレッシャーが割と少ないと思われる中村選手が、優勝を勝ち取りました。
プレッシャーを跳ね除け、実力を出すには、本人のメンタルが一番ですが、監督、コーチ、スタッフなど、信頼のおける周りの方々からの支えも同じくらい大切です。
これから先は、さらに周りの方々の力が必要だと思います。