先日行われた東京マラソン。見事、設楽選手が2時間06分11秒という日本記録を16年ぶりに更新しました。しかも10位以内に6人もの日本人が2時間9分以内という快挙に、テレビのマラソン解説者は驚愕し興奮を隠しきれませんでした。
しかし、私だけでしょうか。
「なぜ、こんなに記録がでたのか?」と疑問に思ったのは・・・。
自分なりに、記録が出た要因を考えてみました。
時間を遡ること2017年5月、サブ2(マラソン2時間を切り)を目指す、ナイキ社のプロジェクト 「Breaking2」 が行われ、3名のランナーのうちキプチョゲ選手が目標にわずかに届かない「2時間00分25秒」でトップでゴールしました。このプロジェクトを進めるにあたっては、生理学・バイオメカニクス・栄養学・流体力学などの専門家が多数関わっていますが、この中でマラソン2時間切りの要因と考えられたものは何か?拾い上げてみました。
- 天候(気温8~12℃)と、風(無風に近いほうがいい)
- コース(フラットでカーブが緩い)
- シューズ(カーボン入りの新製品で前方への推進力を生み、エネルギー消費をカットできるもので、今回のプロジェクトの目玉。ウエアの詳細は明らかにされていませんが、科学の英知の詰まったもの)
- 水分と栄養補給(2.4Kごとに最適化された糖分、炭水化物、カフェイン入りの飲み物やジェル)
これらの要因を考え、F1サーキット場でペースメーカーをつけ、風の抵抗をできるだけ避けるために、菱形のフォーメイションで行われたようです。キプチョゲ選手の今の実力からすると、このシューズを履いていなければ、この記録は生まれていないと推測されます。
それでは、今年の東京マラソンの条件はどうだったのか?
- 気温はレース中5~9℃くらい、風は東寄りの風がわずか
- コースは前半5Kが下り基調で、残りははぼフラット、鋭角なカーブ一部あり
- 10位以内の選手のうち、設楽選手を含めカーボン入りシューズを履いていたのが3人(11位から20位の選手でカーボン入りシューズを履いていたのも3人)
- 給水の中味は個人が考えたもので、2.5Kごとに給水が可能
- ペースメーカーあり
以上の事を考えてみると、気温、風、給水、ペースメーカーについてはほぼ完璧。さらに、コースは一部鋭角なカーブはあるものの、前半5Kの下りがスタミナを温存しながらスピードに乗れるという、記録が出やすいコースです。
さらに、日本人はMGCファイナリストに残るために、非常に高い集中力でこの大会に臨んでいることも好記録が続出した要因だと思います。20位以内にカーボン入りシューズを履いていた日本人ランナー20%、外国人ランナー10%いたというのも事実です(日本人4人 2位設楽、9位山本、16位田中、17位山岸、外国人2人)。
しかし、果たしてこれで日本人は、本当に世界で戦えるのでしょうか?
日本人上位2名はともかく、日本人3位の選手についてはトップから約2分半、4位以降の選手については3分以上も離されています。有力な外国人ランナーがどれだけの高いポテンシャルで参加したかも疑問が残ります。日本人にとって、非常に有利な条件がそろった結果なのです。私の周りのランナーも軒並み好記録続出です。
ただ、フォアフット走法でカーボン入りシューズを履きこなせれば、明らかにタイムは縮まるように思いますが、それに伴いバイオメカニクス(運動力学)的にもトレーニングの方法は変わるわけで、従来の日本式マラソントレーニング理論は通用しないという事。8分台までなら今までの理論でも可能だが、4~5分台を目指すなら新理論の構築が必要であることを裏付ける結果となりました。
私も、今ある知識に運動力学をプラスすれば、ちょっとしたヒントで市民ランナーのみなさんにもっと喜んでもらえるのではないかと考えさせられました。